soy-curd's blog

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今日の小説

奇跡

 群馬で出会う数々の奇跡には、目を見張るものがある。中でも、私がお気に入りの奇跡は以下のようなものだ。それはチュックボールの最中のことだった。私は体育館のギャラリーから選手たちの動きを追っていたのだが、ひとり、動きのおかしな選手がいた。どうやら怪我をしているらしく、右足をひきずるようにしており、表情も苦しそうだ。監督も気づいているようだが、わざと見過ごしているらしく、ちらちらと選手のほうは伺いこそすれ、試合を中断させはしない。選手を下げさせない監督に対して、私は憤りを感じた。しかし、その場で声を荒げたり、ギャラリーを降りることはしなかった。あとたった一分で試合は終わるのだ。まだオンゲームで、この調子だと、怪我の選手を抱えるチームが八点差で勝利する。あとは見守るだけで全てが終わるはずだ。しかしそのとき、ネットに弾かれたと思われたボールが、消えた。選手全員がぴたりと動きを止め、その後、ボールの行方を目で探した。審判は笛を鳴らし、試合を止めた。
 私は半分呆然としながら、その様子を虚ろに見ていたが、やがて、自分の携帯が震えているのに気づいた。試合中だっではあったが、私の右手は反射的に携帯をポケットから取り出し、ディスプレイの電源を入れた。『上をみてください』。アプリが謎のメッセージを告げていた。それは奇跡だった。あの足を引きずっている選手も、チームの味方も、敵も、監督も、私と同様に、肌身離さず持っている携帯のメッセージを見ていたのだった。彼女たちは上を見た。そこでは、体育館の屋根を支える鉄骨のはざまに、無数のチュックボールが煌々と光輝き、自らの存在を周りに伝えていた。ぼくたちは、ここにいるよ、と。まだ自分たちは戦えるのだと。