soy-curd's blog

へぼプログラマーです [https://twitter.com/soycurd1]

ケン・リュウ「紙の動物園」読んだ

この短篇集、ちゃんとSFの舞台で闘いながらも、その外に狙いを定めて書こうとする確固した意思があり、きちんと成功している。素晴らしい作品だ。

自分は最近、プログラムをよく書いているのだけれど、fold、というと、例えば何か長い離散データをひとつの値に変換する、というような処理を思い出す。そして、この作品集には、foldする話が二つも入っている。

表題作「紙の動物園」は、二次元→三次元のfoldingの話で、つまり、折り紙。主人公の「母さん」は魔法を使うことができて、彼女は紙に、命を吹き込む。動く動物たちを作り続ける。そして最後には、紙によって「愛」を作り出す。その過程が描かれている。

「結縄」はもっとすごくて、一次元→三次元のfoldingの話。どっかのアジアの山奥に縄の結んだ結び目を使って文字(!) を記していて、そこに一人のアメリカ人が目をつける。彼らにアミノ酸のコードを渡したら、それをfoldingしてくれるんじゃないか? ということで、その結縄師をアメリカに連れてきてタンパク質の構造を決定する、という話。*1

これらの二つの話には共通点があると思っていて、彼らは、ある単純な構造から次元を超えて別の複雑なものを作る。それが、紙から命を作る、であったり、紐からタンパク質を作る、であったりする。このニ作品だけ取り出すと、ケン・リュウは自分なりに"創造"について考えた結果、このような物語を書いたように読める。たぶん作者は世界の作り方について真剣に考えている。この作品集が、SFだけどSFを超えた文学の香りがそこはかとなくするのは、それが原因だと思う。こういう意識高い作家、好きだ。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

*1:タンパク質というのは単にアミノ酸の列だけが重要なのではなくて、それを折りたたむ他の作用が実は重要。DNAのスニペットだけでは生物は構成できない。