soy-curd's blog

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群馬小説その3

 マカクとは長らく、平和的に暮らしてきた。古くは、食べ物が足りないときにはお互いに穀物を分けあい、飢饉をしのいだこともあるという。マカクはけむくじゃらで、愛嬌のある顔つきをしており、だが、怒らせると非常に恐ろしい。学名Macaca fuscataという。しかしその立派な名を持ちつつも、それらは言葉を持たない彼らにとってはただの音の響きでしかなく、マカクは今もただ、山と里を行き来し、私たちの前に突然現れる。
 ところで、先日県南のほうに釣りに行った際に、マカクたちが目の前に群れていたことがあった。私は車を停め、彼らが道路を横切るのを待っていた。数十匹のマカクが山から沢のほうへ下りて行ったが、その中に人が二、三人混ざっているのを私は確かめた。先ごろのマカクたちは四、五十の年齢の男を連れ去り、その群れに入れてしまうのだ。男たちはマカクたちに混ざると、その上下関係の高みを目指すことに終始するようになる。男たちは、リーダー格のマカクにたびたび戦いを挑んでは、負け、ぼろぼろになりながらも、虎視眈々と次の機会を狙っている。中島敦の書く李徴の真逆を行っているのだ。家族はどうにかマカクたちから男を取り戻そうと画策するのだが、いざ迎えに行ってみると、男たちは帰宅を固辞し、「おれたちのことはいいから」と首を振るという。これが近年群馬県民がマカクたちを駆除する理由である。